私たちの生活や業務に欠かすことのできない「水」を、建物の中で使うための設備を給水設備といいます。給水設備のなかでも「受水槽」と「貯水槽」は似たような言葉で違いがよくわからないかもしれません。水の安定供給と安全性の確保のためにはそれぞれの違いを理解し、適切な維持管理を行うことが肝心です。
1. 受水槽と貯水槽の違い
受水槽
受水槽は上水道や井戸水などの水源から供給された水を一時的に貯めておく設備です。貯めておいた水を給水ポンプで汲み上げ、建物内の使用箇所まで給水するか、受水槽から高架水槽へ供給し、そこから各使用箇所へと給水を行います。
建物の屋上や高いところに設置されている水槽は「高架水槽」や「高置水槽」と呼ばれます。
貯水槽
貯水槽とは読んで字のごとく「水を貯めておく」為の設備全般のことを指します。貯めておいた水の用途にはとくに制限はありません。受水槽は貯水槽の一種で、貯水槽は受水槽を包括した呼称となります。
2. 受水槽・貯水槽の材質とそれぞれの特徴
受水槽・貯水槽の材質には主にFRP(繊維強化プラスチック)、ステンレス、鋼板、コンクリート等が用いられます。木製の受水槽も存在します。それぞれにメリット・デメリットがあります。
FRP(繊維強化プラスチック)
受水槽の主流素材と言えばFRP(Fiber Reinforced Plastics)です。ガラス繊維や炭素繊維などと複合することで強度を上げた樹脂(プラスチック)でできています。
FRP製はステンレスや鋼板に比べて軽いので、パネル式のものは組立や分解が容易で運搬などもしやすいというメリットがあります。また、ステンレス製に比べると価格は抑えられます。ただし、紫外線に弱く強度は経年劣化していきます。
ステンレス
ステンレスは英語でstainless steelと言い、「錆びない鉄」という意味です。錆びにくく、表面が滑らかなので汚れが付きにくいのが特徴です。また、屋外に設置しても光を通さないのでステンレス製の受水槽には藻が発生しません。パネル式になっており、設置工事の際には現地で組み立てることができるものもあります。耐食性・耐久性・耐熱性に優れていますが、FRPに比べると価格は高いです。
鋼板
鋼板製のものは強度が高く、切断・曲げ・溶接などの加工性に優れています。また、自由に色を選び塗装することができます(ロゴなどのデザインを入れたり、タンク自体の形を自由に設計することも可能です)。
ステンレスに比べると錆には弱く、防錆処理皮膜を点検する必要があります。被膜がなくなると錆びてしまいます。
コンクリート
コンクリート製の受水槽は建物の地下地中梁などを利用して作られています。強度と耐久性を持っていますが、コンクリートのひび割れが起こると漏水する可能性があります。ひび割れは温度の急激な変化によってコンクリートが膨張・収縮して発生する場合や地盤沈下により基礎が傾いたりすることで起きる場合もあります。また、酸や塩分などがコンクリートに侵入し、化学反応を起こすことで劣化する場合もあります。漏水だけでなく、ひび割れから地下水が侵入する危険性もあります。
1977年(昭和52年)の建築基準法改正で貯水タンクの上下、周囲のすべてを点検できるよう空間を設けることが義務付けられたため、それ以降は新たに設置できないようになりました。
木
木は鋼板と違って錆びることなく、酸やアルカリにも強い性質があります。また、熱伝導率が小さく、断熱性が高いので貯蔵している水の冷たさを保つことができ、結露しません。そして、木材の樹種によっては抗菌作用もあるため衛生的です。水槽の一部補修をする場合にも他の材質に比べて容易にできることも木製の受水槽のメリットです。ただし、形状は円形か楕円形に限定されます。
3. 水道の給水方式と受水槽設置に適している施設
水道事業者(水道局など)の配水管から建物への給水方式には「直結給水方式」と「貯水槽水道方式」があり、使用用途や建物の規模、必要な水の量、配水管の供給能力などに応じてどちらかを選択するのが一般的です。
「直結給水方式」は配水管の水圧を利用して蛇口まで水を運びます。
「貯水槽水道方式」は水をいったん受水槽に貯めて、その後ポンプを使って給水します。貯水槽水道方式の場合、受水槽を設置するスペースが敷地内に必要です。また、定期的な点検や清掃など維持管理のためのコストが必要になります。しかし、災害時などで断水しても水槽内に残った水を使うことができるので、直結水道方式よりも断水に強いという一面もあります。その為、ホテルやマンション、工場のように一度にたくさんの水を使用する建物や、病院や福祉施設のように常時一定の水を使用することが想定され、断水による影響が大きい施設は受水槽を設置する貯水槽水道方式が適しています。
4. 受水槽の管理義務
水の安全性を保ち、健康と安全を確保するためには定期的な点検とメンテナンスが必要です。
水道管から受水槽までの管理は公共の水道事業者(水道局など)が行い、受水槽から給水栓(蛇口)までの水質と給水設備は建物管理者が適切に管理する責任があります。
有効容量が10㎥(10トン)を超える受水槽は「簡易専用水道」に該当し、年1回以上の清掃と水質検査が義務付けられます(水道法第34条の2及び水道法施行規則第55条、第56条)。
受水槽の規模が10㎥より小さい場合でも「小規模貯水槽水道」と呼ばれ、各自治体の条例で管理基準が定められています。年1回以上の清掃と定期的な水質検査が推奨されています。
飲み水として使用しない工業用水、消防用水を受水槽に貯めている場合は簡易専用水道には当たりません。井戸水(地下水)を汲んで飲用水として使用する施設は別の規制を受ける場合があります。
5. 受水槽の法定清掃と点検、検査
受水槽の清掃(水道法施行規則第55条の1)
水槽内には水が停滞しており、空気と接触しているため水垢が発生したり、水道管を経由して砂や鉄さびが流れ込んで内部に堆積することがあります。
清掃は毎年1回以上必ず行う必要があります。
この清掃は特殊な器具類を用います。また、衛生的で安全な方法をとる必要があるので、専門業者に依頼することをお勧めします。
≪受水槽清掃のながれ≫
作業用器具などを洗浄・消毒します。
清掃開始前に給水栓末端の残留塩素を測定して記録します。また、水の色、濁度、臭気、味について検査をします。
給水の元栓を閉めます。(断水)
水槽の水抜き栓を開いて排水します。ポンプを使って水槽内の水を吸い上げて排水する場合もあります。
水槽の中の水がすべてなくなったら、高圧洗浄機やブラシ等を使い分け、水槽の内部を洗浄・清掃します。
洗浄が済んだら次亜塩素酸ナトリウムを塗布して消毒します。
洗浄した際の残水を完全に排水したことを確認してから給水バルブを開栓して水張りをします。
水張りが完了したら残留塩素の測定、水の色、濁度、臭気、味について検査をします。
専門機関に調査依頼するための水を採取して持ち帰ります。
専門機関に依頼した水質検査の結果をもとに報告書を作成・提出します。
受水槽の点検(水道法施行令第55条の2)
有害物質や汚水等によって内部の水が汚染されることのないように、定期的に点検を行ってください。受水槽本体や配管に損傷がないかを確認します。点検によって欠陥などを発見した場合には速やかに改善処置を行う必要があります。
水質の確認(水道法施行令第55条の3)
給水栓(蛇口)で水の色、味、におい、濁りの有無を確認してください。
異常があった場合には保健所や専門の水質検査機関に依頼して必要項目の検査を行い、安全性の確認をしてください。
汚染事故が起きた時の給水停止(水道法施行令第55条の4)
万一、水が汚染された場合には給水を停止し、利用者に使用しないよう知らせるとともに保健所・水道事業者へ連絡して指導に従ってください。
受水槽の法定検査(水道法第34の2第2項、水道法施行令第56条)
簡易専用水道の設置者は1年に1回、国土交通大臣及び環境大臣登録機関に依頼して管理状況についての検査を受けなければなりません。
〈法定検査の内容〉
◎施設の衛生状態(外観検査)
・供給水に有害物や汚水などが混入するおそれがないか
・水槽内に沈積物や浮遊物質はないか
・水槽及び周辺が清潔に保たれているか
◎給水栓における水質検査
・におい、味、色、濁りの有無
・残留塩素の有無
◎書類の整備状況検査
・配置図面や配管系統図
・水槽清掃の記録
・水質検査や残留塩素測定の記録
・受水槽設備点検記録の保存
・簡易専用水道の検査結果
6. 受水槽・貯水槽の修繕・更新
日常の点検や法定検査の結果、受水槽や配管などに異常があった場合には修繕(更生)する必要があります。また、適切に維持管理をしていても受水槽や給水ポンプには寿命があり、経年劣化による更新が必要となります。
FRP(繊維強化プラスチック)製水槽の設計耐用年数は15年と言われています。定期的に補修をすることで使用期間を延ばすことはできますが、25年くらいを目安に更新することが望ましいとされています。1997年以前に設置した水槽は現行の耐震仕様となっていないものもあるため、早期に更新することをおすすめします。